水理計算とは、浄水施設で作った水を、各家庭の蛇口まで「十分な量と圧力で」安定的に届けるための配管口径を算出する作業です。設計の根幹となる計算であり、これを正確に行うことが、水道システムの安定稼働を左右します。
自然流下式の原理
小規模水道では、ポンプで圧力をかけて水を押し出す加圧式よりも、高い場所に配水池を設置して重力で水を流す自然流下式が主流です。位置エネルギー(標高差)を動力として利用するため、電力コストがかからず、停電時にも水が届くという大きな利点があります。
配水池から各家庭へは、最初は太い幹線管から分岐を重ねながら細い枝線管へと変化していく樹枝状配管が基本です。大都市の配水管網は一度分岐した管が再び合流するループ状の構造を持ちますが、小規模水道では管理の簡素さから樹枝状配管が標準です。
静水圧と動水圧の違い
水理計算で扱う水圧には、2種類あります。
静水圧は、水が流れていない静止状態での圧力です。配水池の水面から計算ポイントまでの標高差がそのまま水頭(水柱の高さ)として圧力を表します。
動水圧は、実際に水が流れているときの圧力です。水が配管の中を流れると、管壁との摩擦によってエネルギーが消費されます。この摩擦損失の分だけ、動水圧は静水圧より低くなります。つまり、配管が長いほど、口径が細いほど、流量が多いほど摩擦損失は大きく、末端での動水圧は下がります。
水理計算の核心は、この動水圧が末端の各家庭で必要な最低圧力(水道施設設計指針では0.15MPa以上)を確保できるよう、各区間の配管口径を適切に決定することです。
配管の摩擦損失を計算するための公式は、配管口径によって使い分けます。
ヘーゼン・ウィリアムス(Hazen-Williams)公式:口径75mm以上
比較的大口径の配管に適用される公式で、次の形で表されます。

ここでh: 摩擦損失水頭 (m)、C: 流速係数、D: 管内径 (m)、Q: 流量 (m3/sec)です。
この公式の特徴は、流速係数Cによって管内面の状態を計算に反映できる点にあります。新品の管と、数十年使用して内面に付着物が蓄積した管では、水と管壁の摩擦抵抗が異なります。新管ではC=130~140程度、経年管ではC=100~110程度を用いることで、施設の「年齢」を設計に組み込めます。
ウエストン(Weston)公式:口径50mm以下
小規模水道で最も多用される公式です。計算式は次のとおりです。

ここでh:損失水頭 [mAq(水柱メートル)]、f:摩擦損失係数、L:管の長さ [m]、v:平均流速 [m/sec]、D:管の内径 [m]、g:重力加速度(9.8m/sec2)です。
小規模水道ではほとんどの配管が50mm以下であるため、実務上はウエストン公式が主役となります。式の形はやや複雑に見えますが、エクセルに一度組み込んでしまえば、管径と流速を入力するだけで摩擦損失が即座に算出できます。
流速の目安
配管内の流速は、摩擦損失と水撃の両面から管理する必要があります。流速が速いほど摩擦損失は大きく、末端の動水圧が下がります。また流速が大きいほど水撃の影響も強くなります。
実務的な目安として、流速は1.0m/s程度を目標とし、1.5m/sを超えないよう口径を決定します。連続の式(後述)から仮口径を設定する際も、この流速範囲に収まるかを必ず確認します。
水撃(ウォーターハンマー)とは
水は流れに慣性を持っています。バルブを急に閉めたり、ポンプが急停止したりすると、流れが急変した際に水が「急には止まれない」性質から、配管内に過剰な圧力(正方向または負方向)が発生します。これが水撃(ウォーターハンマー)です。
水撃が発生すると、動水圧に水撃圧が加算された瞬間最大圧力が配管にかかります。この圧力が配管の耐圧を超えると、管の破損や継手の損傷につながります。
水撃圧の計算と許容確認
実務での水撃圧の計算基準として、以下の値を採用します。
水撃圧 = 静水圧の40% または 0.34MPa のうち大きい方
最終的な安全確認は次の不等式で行います。
動水圧+水撃圧 < 配管耐圧(一般的に0.75MPa)
この条件を満たせない場合は、配管口径を大きくして流速を下げるか、配管材の耐圧クラスを上げるかで対応します。
実際の計算の流れを、具体的な数値で示します。
設定条件
配水池(A地点):海抜70m
給水末端(D地点):海抜40m
途中の分岐点:B地点(海抜65m)、C地点(海抜50m)
静水圧(A-D間標高差):30m = 0.30MPa

Step 1:連続の式による仮口径の設定
まず各区間の流量を設定します。D地点の一家庭の瞬時最大流量を仮に0.3L/s(0.0003m3/s)とすると、連続の式から仮口径を決めます。
Q=v×A=v×πd^2/4
目標流速1.0m/sで逆算すると、d=√((4Q)/(πv)) ≒ 0.020m となります。規格口径に合わせて20mm管を仮設定します。
Step 2:各区間の摩擦損失計算
ウエストン公式を使い、A-B間、B-C間、C-D間それぞれの摩擦損失水頭を計算します。仮に以下の結果が出たとします。
合計摩擦損失:17m
D地点の動水圧 = 30m(静水圧)- 17m(摩擦損失)= 13m = 0.13MPa
Step 3:指針値との比較と口径ランクアップ
0.13MPa < 0.15MPa(指針の最低必要圧)→ NG
摩擦損失の大きいB-C区間(10m)を30mmにランクアップして再計算します。摩擦損失が5mに改善されたとすると:
合計摩擦損失:2 + 5 + 5 = 12m
D地点の動水圧 = 30m-12m = 18m = 0.18MPa → OK
Step 4:水撃圧の検討
水撃圧 = 静水圧30m × 0.4 = 12m = 0.12MPa
ただし0.34MPaの方が大きいので、0.34MPaを採用。
瞬間最大圧力 = 動水圧0.18MPa + 水撃圧0.34MPa = 0.52MPa
配管耐圧0.75MPa > 0.52MPa → OK
実務ではエクセルを活用して、変数を変えると即座に結果が更新されるシートを構築することを強く推奨します。
今回はざっくりと水理計算についてご紹介しました。次回急なトピックがなければ、水理計算以外の配管設計についてご紹介いたします。
水道公論 2022年3月号(第58巻第3号)pp.43-53, 信州大学名誉教授 中本信忠
「生物屋の緩速ろ過池研究 その6 クリプト事故でアメリカは緩速ろ過を再認識」
塩素でも死なない原虫が、世界の水道技術を変えた --クリプト事故が証明した「生物浄化法」の圧倒的優位
1993年春、アメリカ・ミルウォーキー市で前代未聞の事態が起きました。市内の急速ろ過浄水場から供給された水道水が原因で、約40万人が集団下痢を発症したのです。原因はクリプトスポリジウム--水中に広く存在する原虫(クリプト原虫)でした。腸管の長い哺乳動物だけが下痢を引き起こされるこの原虫が、当時の水処理の「常識」を根底から揺るがしました。
その常識とは「塩素殺菌をすれば安全だ」というものです。クリプト原虫のシスト(休眠体)は塩素消毒によっても死滅しない。急速ろ過の逆洗行程では、砂層に捕捉されていた細菌や原虫が一気に通過してしまう--この二つの弱点が重なった瞬間、40万人が被害を受けたのです。
事故翌年の1994年、アメリカ水道協会(AWWA)は緩速ろ過の研修会を開催します。そこで強調されたのは、緩速ろ過が決して「古いローテク」ではないという事実でした。細菌・ウイルス・原虫のいずれに対しても極めて高い除去能力を持ち、薬品を必要とせず、操作も維持管理も簡単で費用対効果が高い--研究者たちはこれを「タイムレス・テクノロジー(時代を超越した技術)」と呼びました。
その理由は明確です。生物浄化法(Ecological Purification System)では、砂層表面の生物群集が有機物や微生物を継続的に捕捉・分解します。急速ろ過のように逆洗で一度に放出するプロセスがないため、クリプト原虫が通過するリスクが根本的に低い。アメリカ水道協会の雑誌にはクリプト事故後、緩速ろ過関連の投稿や論文が急増しました。生物の力を活かすこの技術が、現代の水処理科学に基づいた合理的な選択として再評価されたのです。
日本でも1996年、埼玉県越生町で8,800人以上がクリプト原虫による集団下痢に見舞われました。その対応として導入されたのは膜処理など高度な処理設備でした。しかし中本先生が指摘するのは、このとき緩速ろ過(生物浄化法)が検討の対象にすら挙がらなかったという事実です。
「色眼鏡」--中本先生はこの言葉で、日本の水道界が緩速ろ過に対して抱いてきた先入観を表現します。急速ろ過を前提とした行政指針が長年続く中で、緩速ろ過に関する情報は蓄積されず、「古い技術」「小規模向け」という固定観念だけが広まってきました。膜処理という高コストの選択肢が採用される一方で、薬品なしに浄水濁度0.000度を実現できる技術が、正当な比較検討の場に上がることすらなかったのです。
生物浄化法の優位性を最も端的に示すのが、上田市染屋浄水場と高崎市若田浄水場の実績です。水源の貯水池の周囲に牛が放牧されているような環境であっても、生物群集が活躍するろ過池では原虫のリスクを最小化し、浄水濁度は常に0.000度--スーパークリーンな水が供給され続けています。
Acceptable Microbial Risk(許容できる微生物リスク)という考え方があります。無菌状態を目指す方向ではなく、自然の生物的な浄化力と免疫力を組み合わせて安全を確保する--これこそが生物浄化法の思想です。クリプト原虫はどこにでも存在する生物です。問題はそれを「薬品で排除する」のか、「生物群集が捕捉・分解する環境をつくる」のか、という技術哲学の選択なのです。
2002年、ロンドン・タイムズ紙は「ボトルを忘れ、蛇口からの水道水を」というキャンペーンを展開しました。脱プラスチック・水道回帰という世界的潮流の中で、低エネルギー・低コスト・薬品不要で安全でおいしい水を届ける生物浄化法は、まさにSDGsが求める姿に合致します。
長野県企業局がYouTubeを通じた情報発信や研修会を重ね、緩速ろ過の再評価が地方自治体から動き始めています。地震・水害・停電--災害大国日本において、シンプルな構造で止まらない水処理技術の価値は計り知れません。色眼鏡を外し、生物浄化法を正当に評価する時が来ています。
1人1日3リットル、最低3日分--この防災の常識は、ある程度浸透してきました。感覚的には、2人に1人は自宅に水の備蓄を持っています。自治体の備蓄倉庫にも、大企業の社内備蓄にも、コンビニやスーパーの在庫にも、一定量の水があります。
では、その備蓄は本当に機能するのでしょうか。
残りの半分の人--備蓄を持っていない人々は、地震発生後にどこへ向かうか。行政の備蓄へ、店舗の在庫へ。そして、その在庫はあっという間に底をつきます。
能登半島地震では、被災地に日本全国から即座にペットボトルが届きました。しかし南海トラフ地震や首都直下地震が発生した場合、同じことは期待できないと考えています。
南海トラフ地震が発生すれば、太平洋岸を中心に日本の半分が被災します。首都直下地震では、被災エリアは限定的に見えますが、4,000万人近くが居住する首都圏が対象です。仮にその10%に水道が届かなくなるだけで、400万人が飲み水に困る計算になります。能登の被災規模とは、被災人口の桁が違います。
さらに見落とされがちな存在があります。インバウンド観光客と帰宅困難者です。東京都内には常時数十万人規模の外国人旅行者がいます。彼らは当然、自宅備蓄を持っていない。帰宅困難者は、職場や外出先で被災します。これらの「計算外の需要」が行政やお店の在庫に殺到します。
水がなければ、人は1週間しか生きられません。需要が供給を圧倒的に上回るとき、水は「もらえるもの」ではなく「自分で確保するもの」に変わります。
政府や自治体が発表している被害想定のうち水道に関しては、「断水は一部地域で発生するが、1ヶ月後にはほぼ復旧」という見通しが含まれています。しかし、これは楽観的すぎると考えています。
現場エンジニアとして言わせてください。平時の今、浄水場の設備の一部が故障した場合、部品の手配から修理完了まで1ヶ月以内に収まるかどうかですら、確実ではありません。専門部品の調達リードタイム、対応できる技術者の確保、施工の手順--これらを平時のペースで進めても、容易に数週間を超えます。
災害時はどうか。物流が寸断されています。部品を作っている工場が被災しているかもしれない。作業員自身が被災者です。道路が通れない。重機が動かない。停電でポンプが使えない。こんな状況で1か月で断水復旧が可能でしょうか?
さらに最悪のシナリオとして、南海トラフ地震と富士山噴火が連動する可能性が指摘されています。噴火が発生すれば火山灰が広域に降り積もり、浄水場のいろんな機能が機能不全に陥ります。自家発電設備が灰に埋もれれば、電力も失われます。浄水場が機能しなくなることで、被災人口はさらに増えます。
「1ヶ月で復旧するはず」という前提は楽観的だと言わざるを得ません。復旧まで数ヶ月かかることを想定した上で、その間をどう生き延びるかを考えなければなりません。
東京都心部の河川水には、工場排水、農薬、医薬品成分、重金属など、様々な化学物質が含まれている可能性があります。それを長期間飲み続ければ、健康被害のリスクがあることは否定しません。
しかし、人間は水分を取らなければ1週間で死にます。
非常時の優先順位を間違えないでください。「長期間飲み続ければ健康被害があるかもしれない水を飲むリスク」と「水を飲まないことによる確実な死」を天秤にかけたとき、答えは明確です。浄水器とハイターを使って処理した水であれば、感染症や食中毒のリスクを抑えられます。長期的な化学物質の蓄積リスクは残りますが、「今生き延びること」が最優先です。
支援物資が届けば、そこで切り替えればいい。2週間、3週間という期間を生き延びるための「緊急の水」として割り切る。この覚悟を持っておくことが、実際の極限状況で冷静な判断を支えます。
備蓄の最低ライン:1人1日3リットル×5日分
3日分は最低限です。できれば5日間分を備蓄してください。行政の対応が動き始めるまでに最低でも3~5日かかるでしょう。4人家族なら60リットル、2Lペットボトルで30本です。
道具の最低ライン:三種の神器を揃える
携帯型浄水器1本(数千円)、汲み置き式浄水器1台(数千円)交換用カートリッジセット数千円、洗濯用ハイター1本(数百円)。合計1~2万円以内で揃う、この三点セットが「備蓄が尽きた後」の命綱になります。
知識の最低ライン:使い方を今のうちに練習する
道具があっても、使い方を知らなければ意味がありません。今度の週末、自宅近くの川や公園の水を携帯浄水器でろ過し、ハイターで処理して飲む練習をしてみましょう。極限状態に陥る前に、「自分にはできる」という体験を持っておくことが、精神的な余裕を作ります。
南海トラフも首都直下地震も、来るかどうかではなく、いつ来るかの問題です。「ペットボトルを備蓄さえすれば安心」という思い込みを、今日手放してください。目の前の汚れた水を飲める水に変えられるかどうか--その技術と道具を持っているかどうかが、生き残りの境界線になります。
A.
多くの場合、可能です。
取水設備・貯水槽・配水管など既存資産を活かし、最低限の改修で導入できるケースが多数あります。
コスト削減につながる重要なポイントです。
ニュースではあまり取り上げられていませんが、各業界で石油ショックによる資材の枯渇が始まっていますね。水道業界だと塩ビ管など石油関連商品の入荷が滞っているようです。一日も早く状況が改善することを祈念しております。