株式会社水未来研究所

100億人に届け命の水|小規模水道・実務ノウハウ通信 #06

今週のメルマガ内容

【1. 今週の実務ノウハウ】:老朽化配管の更新不要管について
【2. 専門知の共有:中本名誉教授の視点】
【3. 災害下の水について】携帯型小型浄水器の正しい使い方
【4. Q&A 現場の悩み相談】
【5. 編集後記】

【1. 今週の実務ノウハウ】

「更新しない」という英断。老朽化配管16.3万kmを削減する「2つの切り離し戦略」と現場の実務

1. 前回のあらすじ

法定耐用年数を超えた水道管の総延長、16.3万km。

前回のメルマガ記事では、この配管延長はそのまますべてを受け入れ、更新すべきかという疑問を呈し、その結論として最後に、更新が不要な配管も実はあるのではないか、とまとめました。

今週はこの老朽化配管のうち、どのような配管を更新しなくてよい可能性があるのかという部分について論じてみたいと思います。
私は、以下の2つのケースにおいて更新が不要なのではと考えていおり、それぞれのケースについてできる限り具体的にご紹介いたします。

2.ケース(1)──ニーズが消失した「空白エリア」の切り離し

最初のケースは、だれもいなくなった集落、企業への水道配管です。
例えば仮に過去5年間、居住者も企業活動も存在しないエリアがあれば、そこへ伸びている配管は、水道を届けることもなくそこに存在するだけとなっています。そのエリアへの配管を最初の更新対象外配管と考えます。

この際の実務上の手順は以下の通りです。

最初に行うのは、住民基本台帳を確認し、人がいなくなった集落、廃業した企業を探します(以降、企業についての記述は省略します)。
その集落の最後の人が集落からいなくなった時期から5年が経過しているかどうかを確認します。次に、台帳情報と現実には乖離が生じていることが多くあります。よって、書類上はだれも居住していないことになっていても、実際に住んでいる人がいないかどうかを確認する必要があります。

この確認方法として考えられるのは、まずは電力会社・ガス会社への照会です。
対象エリアの建物における電気・ガスの使用状況を確認することで、実際の居住・活動の有無を補完的に把握できます。こちらの使用量も5年間ゼロであれば、実態として無人である可能性が高いと判断できます。

その上でさらに現場での目視確認を行います。対象エリアに実際に足を運び、建物の外観、郵便受けの状態、敷地への出入り痕跡などを確認します。季節によっては別荘や農業目的で使用されている場合もあるため、複数回の現地確認が望ましいと思われます。

これらの確認を経て、その集落に本当に人が住んでいない、つまり水道ニーズが実質的に消失していると判断できたエリアについては、その手前の給水エリアの末端に仕切弁を設置し、それ以降の配管を「未更新・閉塞」として登録・管理します。この「未更新・閉塞」配管は物理的に撤去するわけではなく、更新リストから外すという事務手続きを行い、さらに将来的に再開発や移住者が生じた場合に備え、記録は保存しておきます。

最初の数件はこうした確認作業に相応の工数がかかりますが、手順をマニュアル化すれば、以降は標準的なスクリーニング業務として運用できるようになると考えます。

3. ケース(2)──遠隔集落の「小規模水道化」による長距離管路の廃止

2つ目の戦略は、より能動的なアプローチです。
山間部や沿岸部など、長距離の管路を維持するコストが、そこから得られる料金収入では到底回収できないエリアが存在する。こうした地域に対して、基幹管路からの「切り離し」を積極的に進めることが、今後の自治体水道経営を救う現実的な手段になりえます。

集落のすぐ近くに水源が確保できれば、長距離の基幹管路に依存する必要がなくなります。例えば、粗ろ過・緩速ろ過、あるいは地下水利用の水道といったシンプルで維持しやすい処理方式を採用することで、専門人材がいなくても集落が自律的に管理できる水道が実現します。

このアプローチの最大のメリットは、コストの相殺です。
小規模水道の建設コストは確かに発生します。しかし、その集落へと伸びていた長距離管路を今後更新しないことで回避できるコストを計算すれば、多くのケースで建設費を大幅に下回ります。さらに、数十年にわたる維持管理コストの削減効果を加算すると、経済的な合理性は明確になります。
建設と切り離しをセットで計画し、財政担当部門と連携して費用対効果を可視化することが、意思決定を加速させる鍵です。

4. インパクト──削減されるのは「予算」だけではない

おそらく老朽化配管を対象外とする方法は、この2種類になると思います。
2つの戦略が生み出すインパクトは、建設費の削減だけにとどまりません。
金額規模で言えば、対象エリアや管路延長によって数億円から数百億円単位のコスト回避が見込まれます。しかし私たちがより重視したいのは、行政職員やコンサルタントの工数削減という効果です。

配管の更新工事には、発注業務、設計審査、施工監理、竣工検査という一連のプロセスが伴います。それぞれに相当の工数がかかり、人手不足が深刻化する自治体では、この負担が現場職員を圧迫しています。不要な更新工事を削減することは、その圧迫を直接和らげることを意味します。

浮いた工数を、本当に必要な設備の維持管理や、住民サービスの向上に充てることができます。予算の削減と人材の再配置が同時に実現します。
手順のマニュアル化が進めば、この戦略は全国の自治体が活用できる「共通の武器」になります。先行して取り組んだ自治体の知見を横展開することで、日本全体のインフラ縮小コストを体系的に圧縮できる可能性があります。

5. 後世に「巨大な負債」を残さないために

すべての配管を維持し、すべてを更新し続けることが「責任ある行政」だった時代があります。人口が増え、需要が拡大し、インフラの拡張が豊かさと同義だった時代の論理です。
しかしその時代は終わりました。
人口が減り、財政が縮小し、担い手が不足する中で、同じ論理を持ち続けることは責任ではなく、後世への負荷の先送りです。適切に畳むことを決断し、切り離すべき配管を特定し、身の丈に合ったインフラへと再設計すること。それが今の時代における、水道に関わる者の本来の責務だと水未来研究所は考えています。


【2. 専門知の共有:中本名誉教授の視点】

水道公論 2022年2月号(第57巻第14号)pp.70-80, 信州大学名誉教授 中本信忠 「生物屋の緩速ろ過池研究 その5 藻の繁殖とろ過継続」

水道の新常識:生物たちが「目詰まり」を防ぐ不思議な力

殺藻剤を止めたら、水はスーパークリーンになった --「目詰まりを防ぐ」のは、実は藻だった

「生物処理なのに、なぜ生物を殺すのか」--この根本的な矛盾が、日本の緩速ろ過の現場に長年根づいていました。明治時代にアメリカから伝わった「藻は目詰まりの原因」という誤った常識が、緩速ろ過池に硫酸銅による殺藻処理を普及させ、本来の生物浄化の力を奪い続けていたのです。

■ 殺藻剤を止めたら、ろ過継続日数が劇的に伸びた

1981年(昭和56年)、上田市染屋浄水場の場長は思い切った決断を下します。それまで続けていた殺藻剤と硫酸銅の添加を中止し、あえて藻を繁殖させることにしたのです。
その結果、それまで月平均10日前後だったろ過継続日数は、殺藻剤中止後から着実に伸び始め、削り取り回数も目に見えて減少しました。

原水の濁度が多い年でも継続日数は増え、ろ過池は安定して長く動き続けるようになったのです。藻が繁殖することで、かえって目詰まりが防がれていた--従来の「藻=目詰まりの敵」という定説を覆す、現場発の実証データでした。
その仕組みはこうです。糸状珪藻メロシラが光合成によって酸素を生産し、濁りを絡めて水面へと浮上させる「自動洗浄機能」が働く。藻が密に繁殖すると越流管から自然に排出され、砂層は詰まらずに済む。さらに砂層内部では捕食動物が活躍して水の通り道を確保する--生物群集全体が、動的に自浄作用を発揮していたのです。

■ 「損失水頭」という誤解--日本の指針が見落としていたこと

ところで、そもそもなぜ日本の緩速ろ過は「短期間で目詰まりする」と思われてきたのでしょうか。その答えは、実は管理の「ものさし」の問題にありました。

ろ過池の目詰まり具合を測る指標として、日本では長年「損失水頭(ろ過池の水面と調節井の水面の高さの差)」が使われてきました。しかしこれはろ過速度が速いほど損失水頭も大きくなる--つまり「速く流しているから損失が大きく見える」だけで、本当の目詰まり具合を表していないのです。
世界基準は「標準化損失水頭(Normalized Head Loss:NHL)」です。実測した損失水頭を英国標準ろ過速度で割り戻すことで、流速の影響を排除して真の目詰まり度を評価できます。この指標で見ると、テムズ水道では1~2.5センチメートル程度で継続管理されていたのに対し、日本の指針は「水面が砂面より低くなってはいけない」とするだけで、正しい評価基準を持っていなかった。「目詰まりしている」と判断して削り取りをしていた多くのケースが、実は目詰まりしていなかったかもしれないということがわかりました。

■ 夏に濁りが増えても、抵抗が増えない不思議

生物浄化の力を最も劇的に示すのが、季節による変化です。
冬は水温が低く生物活性が弱いため、濁り負荷が少なくても抵抗がじわじわ増えていきます。
ところが夏は水温が高く生物活性が高いため、濁り負荷が増えても抵抗がほとんど増えません。それどころか、高崎市の若田浄水場では8月に濁りが多く入ってきてもろ過抵抗がむしろ小さくなる傾向さえ見られました。砂層内の捕食動物が活発に働き、水の通り道を確保し続けるからです。これは機械設備では決して実現できない、生物ならではの動的な浄化プロセスです。

■ 大きい砂でも、濁度は「0.000度」--指針の更新を

高崎市若田浄水場では、急速ろ過用の大粒な砂を使っているにもかかわらず、生物群集が活躍することで砂層内への汚れの侵入は起きず、ろ過水の濁度は染屋浄水場と同じスーパークリーン(濁度0.000度)を達成していました。

砂の粒径より、生物が活躍できる環境かどうかが決定的に重要なのです。凝集剤も、細かい砂も、頻繁な削り取りも、生物浄化法が正しく機能していれば必要ありません。

「生物浄化法(Ecological Purification System)」という名のもとに日本の水道指針を見直す時が来ています。山の湧水が自然の生物群集によって常においしい水であるように、緩速ろ過は自然界の仕組みをそのまま活用した水処理です。その力を最大限に引き出す設計と管理こそが、次世代の水道技術の柱になるはずです。


【3. 災害下の水について】

5,000Lろ過の真実。携帯型浄水器を「災害時の魔法」にしないための、プロの活用術

1. Amazonに並ぶ「同じような見た目」の製品たちの実力

手のひらに収まるサイズで、価格は数千円。筒状の本体に、膜のフィルターが内蔵されているミニ浄水器。
ラベルのデザインは違っても、構造はほぼ同じ。そんな携帯型浄水器が、防災用品の棚やアウトドアショップに並んでいます。
この製品に対して、ユーザーの反応はおそらく二極化していると考えます。
「これ一つあれば、どんな水でも飲める」という過信。あるいは「怪しい。本当に大丈夫か」という疑念。
プロの視点から言えば、どちらも正解だし、誤りだとも言えます。
製品そのものの性能は、問題ありません。私も使用したことがあり、処理水水質の公定分析を行ったこともあり、品質は問題ないことを確かめています。

しかしこの製品の使い方を間違えれば、あっという間に目詰まりして使い物にならなくなります。その寿命を伸ばすのは、製品の質ではなく、どう使うかにかかっています。

2. 膜(メンブレン)の仕組みと「ろ過」の物理

携帯型浄水器の要部は、膜(メンブレン)です。
水処理で使われる膜には、大きく分けて4種類あり、海水を真水に変えるRO膜(逆浸透膜)、その次に細かいNF膜(ナノろ過膜)、そしてUF膜(限外ろ過膜)、MF膜(精密ろ過膜)へと続きます。RO膜に近いほど除去できる物質の種類は増えるますが、ろ過にはかなりの圧力が必要になります。
そのため、市販の携帯型浄水器のほとんどが採用しているのは、UF膜またはMF膜を応用した「中空糸膜」と呼ばれるものです。
これらの膜には無数の微細な穴が空いており、その穴より大きいものは通過できません。

物理的な障壁として機能し、濁り、細菌、大腸菌、クリプトスポロジウムなどの原虫を確実にカットできます。化学的な処理ではなく、純粋に「穴より大きければ通さない」という原理です。
結果として、無色透明で、病原微生物を除去した水を作れることになります

3. 「5,000L」という数字の罠と、目詰まりの現実

これらの製品のパッケージには「5,000Lろ過可能」という数字が書かれてあることがあります。これが、最も大きな誤解を生む数字なのです。
この数字は、あくまで理論上の最大値であって、最も条件の良い水(例えば水道水)を通し続けた場合の上限であって、現実の使用環境を反映した数字ではありません。
先ほどの膜のろ過原理を思い出しください。穴より大きいものは、すべて通れない。逆に通れなかったものはどこへ行くかといえば、膜の表面に溜まり続けます。これが膜が「目詰まり」するメカニズムなのです。

つまり、泥水をそのまま吸い込めば、大量の泥の粒子が一気に膜の表面に押し付けられ、わずか数リットルで流量が激減し、やがて一滴も出なくなることもあります。
5,000Lどころか、50Lも使えないまま終わる可能性が十分にあります。
濁った川や池の水。災害時にはそうした水しか手に入らない場面があるかもしれません。そこに「5,000L使える浄水器がある」という安心感だけを持って臨めば、最も水が必要な時に、あっというまに道具が使い物にならなくなるいという最悪の事態になりかねません。

4. 小型浄水器を「長持ち」させる方法

では、どうすれば携帯型浄水器を最大限に活かせるかということですが、できるかぎり膜に負担をかけない水を通すこと、ただそれだけです。
川や池の水を浄水器に直接吸い込むのは、本当にいま数Lでもいいから飲み水が必要な時だけにしてください
そこまでせっぱつまっていなければ、まず行うべきなのは「前処理」です。
それには24時間静置法が、最も手軽で効果的な方法です。バケツや鍋に水を汲み、そのまま1日置く。重力によって、水中の粒子は底に沈んでいく。翌日、沈殿物を動かさないよう静かに上澄みだけを取り出す。この水を浄水器に通す。
それだけで大丈夫です。たったこれだけの一手間が、浄水器の寿命を飛躍的に延ばします。濁った水と透明な上澄みでは、膜への負荷がまったく異なります。5,000Lという理論値に、実際のろ過量を大きく近づけることが可能です。
なお、バケツに汲んで一日置いた水の上の方は本当に透明で、ろ過する必要があるのか?と思うくらいキレイなときもあるかもしれません。もちろん膜がなければこれを消毒だけして飲んでも大丈夫です。しかし、もし、手元に膜があるならろ過することで、不要なものは除去できるのでできる限りそうしてほしいと思います。
これらのことを知っておくだけで、携帯型浄水器は本当の意味で「頼れる道具」になります。

5. 道具に「知恵」を乗せて、命を守る

携帯型浄水器は、優れた商品だと思います。
中空糸膜が、肉眼では見えない病原微生物を確実に除去します。その能力は本物であり、正しく使えば時に命を救う道具になります。
しかし誤った使い方、例えば濁った泥水をそのまま吸い込めば、数リットルで目詰まりして、それ以上はろ過できなくなるかもしれません。

逆に24時間静置した上澄みを通せば、その何十倍もの水を安全に確保できることでしょう。
同じ製品が、知識一つで長持ちさせられます。


【4. Q&A 現場の悩み相談】

Q. 既存の簡易水道設備を一部流用し、より低コスト・低負荷の浄水システムに変更できますか?

A.
多くの場合、可能です。
取水設備・配水池・配水管など既存資産を活かし、最低限の改修で導入できるケースが多数あります。
コスト削減につながる重要なポイントです。


【5. 編集後記】

ここ東京では、今年の桜は見納めとなり、新緑の瑞々しい季節となってまいりました。寒さも遠のき、初夏ほどの暑い日もあるくらいです。個人的には今抱えている重ための仕事が一区切りつきそうなので、現場に確認に行くなど、フィールドに出たい気分に駆られています。つい先日、新年を迎えたかと思うと、もうこんな季節で月日の流れる速さに驚きます。さて、先日、技術士試験の申込を行いました。以前も記述は通ったのですが、口頭試験で落ちまして。今回はしっかり対策して、上下水道部門で技術士となれるように勉強を頑張りたいと思います。